「来られない」「出られない」を前提に旅を設計する。 台風・高波・濃霧・噴火・地震・機材繰りで、島のフェリー・空路は一気に止まります。
本稿は、出発前→到着直後→滞在中→欠航発生→復旧・帰路の5段で、足の確保・滞在延長・情報集約・費用管理を実務に落とし込みまとめた総合ガイドです。家族連れ・高齢者同行・医療通院・仕事出張など目的別の運用や、夜間・停電・通信混雑にも触れ、迷わず決めるための短文テンプレを多数収録しました。
1.出発前の設計:足を“二重化”し、滞在延長の器を作る
1-1.航路と空路の“二段構え”
- 往路A/復路B:行きは空路、帰りはフェリーなど異なる移動手段を原則にし、同時欠航リスクを分散。
- 別日/別社の保険:復路は24〜48時間後の予備便を同時確保(無料取消や変更可の運賃を選ぶ)。
- 近隣島経由:本島直行が途絶えた際の島→隣島→本島という多段ルートを地図に書き込む。小型機・小型船の港や滑走路位置も印。
1-2.宿・通信・現金の“延長耐性”
- 宿:連泊可否・停電時の対応・自家発電の有無を事前確認。別宿の予備連絡先も控える。
- 通信:2回線(例:主要回線+サブ回線)と地図の端末内保存。公衆通信の場所(港・空港・役場)を地図に印。
- 現金:ATMや金融機関の位置・営業時間を把握。少額札・硬貨を増やす(自販機・バス対策)。
1-3.健康と必需品の“72時間キット”
- 薬:常用3日分+予備、酔い止め・鎮痛・胃腸。処方箋の控えを写真で携帯。
- 水と食:到着から72時間を自力でしのげる軽食(羊羹・ナッツ・乾パン)と粉末飲料。塩分補給も用意。
- 照明・充電:携帯電源2台、短いケーブル、小型ライト。
1-4.家族・同行者ごとの配慮
- 乳幼児:ミルク・おむつ・着替えを1日多め。列で抱っこ紐を主とし両手を空ける。
- 高齢者:段差の少ない宿・移動を選び、休憩間隔を先に決める。
- 妊婦・持病:急な運休時に受診できる診療所の場所と時間を控える。
出発前チェック表(保存用)
項目 | 決めごと | 状態 |
---|---|---|
往路/復路の二重化 | 往:空路A/復:フェリーB | □ |
予備便 | 48時間後に1枠 | □ |
近隣島経由 | ○○島→△△島→本島 | □ |
宿の延長 | 連泊可/発電機○ | □ |
通信 | 2回線/地図保存 | □ |
現金 | 少額札・硬貨多め | □ |
72hキット | 薬・軽食・ライト | □ |
同行者配慮 | 乳幼児/高齢/妊婦の要件 | □ |
気象→運航影響の目安(把握しておく)
要因 | フェリー小型 | フェリー大型 | 小型機 | 中・大型機 |
---|---|---|---|---|
うねり・波高 | 止まりやすい | やや強い | — | — |
横風 | — | — | 止まりやすい | 中 |
霧・視程 | 中 | 中 | 高 | 中 |
噴火灰 | 高 | 高 | 高 | 高 |
2.到着直後の15分:現地の“窓口”と退避の目印を押さえる
2-1.情報の窓口を3層で確保
- 一次:港/空港カウンター(運航・機材・振替)。掲示板の写真を撮る。
- 二次:観光案内所/役場(避難所・医療・燃料・宿・通信)。
- 三次:宿(地域の実情・空室連絡網・停電時の運用)。
2-2.足の代替:足元で数えて“歩ける距離”を掴む
- 地図に印:港⇄空港⇄宿⇄診療所⇄役場を分単位で記入。徒歩100m=1分、高齢者は2分。
- 交通弱者の動線:坂・段差・風の当たりを実見。夜道は明かりのある幹線に寄せる。
2-3.合流と連絡の“短文テンプレ”を共有
- 集合1:港待合室の券売機横/集合2:役場前の案内板(屋外・広い場所)。
- 短文:「今〇〇港。臨時連絡は集合1→10分後集合2。返信不要。」
- 電池が少ないときはSMS→音声の順。位置共有は15分限定。
到着15分テンプレ
分 | 行動 | チェック |
---|---|---|
+0 | 窓口の位置確認 | 港/空港/観光/役場 |
+5 | 代替ルートの徒歩分 | 宿・診療所の分数 |
+10 | 合流テンプレ共有 | 集合1→2の文 |
+15 | 72hキットの手元化 | 水/薬/ライトを携行 |
夜間・停電時の着眼
- 外灯が消える地区は幹線道路へルート変更。
- 港・空港の非常灯の位置を昼のうちに確認。
3.滞在中の運用:天候・燃料・冷蔵・通信の“弱点”を先に埋める
3-1.天候の読み替え(海・空・陸)
- 海:高波/うねりでフェリー欠航。風向が港内に入ると欠航率UP。風裏の港の名前を控える。
- 空:横風・視程・霧で飛行機欠航。最終便の前倒しを基本に、午前便に寄せる。
- 陸:冠水・落石・倒木で港/空港への道が閉じる。1本早い移動、山側の代替道を把握。
3-2.燃料と電力(移動+冷蔵の生命線)
- 燃料:レンタカーは燃料半分で給油。スタンドの営業時間・現金可否をメモ。
- 電力:冷蔵食品は小分け+保冷剤。停電時は開閉最小。携帯電源は昼に充電。
- 共同充電ポイント:宿・役場・観光案内所のコンセント位置を確認。
3-3.食料・水・衛生
- 水:宿で給水場所を確認。スポーツ飲料粉末で塩分補給。
- 食:乾物・缶詰・パンを1食分余らせる運用。飲食店が閉まる時間を把握。
- 衛生:除菌シート・小袋でごみを分別。匂い対策に密閉袋。
3-4.医療・避難と情報の器
- 診療所の場所・時間、夜間救急の窓口を写真で控える。
- 避難所と津波/土砂の高台を徒歩分で記入。夜道ルートも決める。
- 地域放送の聞こえる場所(港・役場・学校)を試す。
滞在中・運用表
項目 | 行動 | 目安 |
---|---|---|
移動 | 港/空港へ早めに | 最終の1便前 |
燃料 | 半分で給油 | 現金対応も |
電力 | 冷蔵は開閉最小 | 小分け+保冷 |
食料 | 1食分の余裕 | 早めの買い出し |
医療 | 診療所の場所確認 | 時間と電話 |
避難 | 高台ルート2本 | 徒歩分で記入 |
通信 | 2回線運用 | 公衆通信の場所 |
4.欠航・欠便が出たら:並ぶ順より“決める順”
4-1.フェリーが欠航したとき
- 行動順:①宿の延泊可否→②代替港(隣島)→③貨客船・臨時便の情報→④陸路の予約。
- 荷:重い荷物は宿に預ける。手ぶらで並ぶと意思決定が速い。
- 並びの作法:代表者だけ列へ、他は情報収集。こまめに入替して体力温存。
4-2.空路が欠航したとき
- 行動順:①翌朝の便へ振替→②別社/別路線→③近隣島の空港→④フェリーへのモード変更。
- 運賃:変更可の運賃を選んでいれば差額最小。領収書は必ず保存。
4-3.並びと情報取得の“役割分担”
- 役割:窓口(交渉)/端末(検索)/現地(掲示・放送チェック)を分担。
- 短文:「私=窓口、A=検索、B=現地。10分ごとに集合1。」
4-4.電話・窓口での伝え方(読み上げ用)
「○○便欠航で、最速の代替を探しています。近隣港からの便・臨時便・他社・翌朝の便、空席がある順にご提案いただけますか。」
欠航発生→初動テンプレ
事象 | 3分で | 10分で | 30分で |
---|---|---|---|
フェリー欠航 | 宿の延泊可否 | 代替港の時刻調査 | 臨時便待機/陸路予約 |
空路欠航 | 翌朝便へ変更 | 別社/別路線検索 | 近隣島→本島の多段化 |
費用・証憑の扱い
- 保管:領収書・案内板の写真・振替控えをまとめる。
- 精算:船+車+鉄道の合計で比較し、早い方を優先。
5.復旧・帰路:多段ルートで“出口”を広げる
5-1.多段ルートの作り方(例)
- 島→隣島→本島:小型船や連絡船で風裏の港へ回り、大型航路につなぐ。
- 島→空港のある島→本島:短距離便で霧を避け、大きな空港から本土へ。
- 島→本島→別空港:空路が弱いときは船+鉄道に切替。
5-2.時間と体力の設計
- 時間:乗継の待ちは食事・充電・休憩に充て、疲労を溜めない。
- 体力:荷物は2段階(身につける必需品/預け荷)に分け、手ぶらで判断。
5-3.帰宅後の“次回のための記録”
- 欠航の条件(風向・波高・視程)と代替成功ルートを地図に追記。次回は迷わない。
交通手段×気象の相性表(目安)
手段 | 影響要因 | 止まりやすさ | 回避策 |
---|---|---|---|
フェリー大型 | うねり・波高 | 中 | 風裏の港へ回す |
フェリー小型 | 風向・波 | 高 | 欠航想定で代替準備 |
飛行機(小型) | 横風・視程 | 高 | 朝の便/別滑走路の島 |
飛行機(大型) | 横風 | 中 | 別社/別空港へ |
装備の優先度(身につける/預ける)
種別 | 身につける | 預ける |
---|---|---|
連絡 | 携帯・充電・短文メモ | 予備充電 |
医療 | 常用薬・処方控 | 追加分 |
食 | 羊羹・ナッツ | 予備の缶詰 |
衛生 | ティッシュ・除菌 | 追加の袋 |
Q&A(よくある疑問)
Q1.台風直後に入島予定。行くべき?
A.インフラ復旧前は足があっても宿・飲食が機能しないことが多い。48時間ずらす選択を基本に。
Q2.離島で現金が足りない。どうする?
A.小規模店は現金のみが多い。宿で立替相談、港/空港の売店で電子決済の可否を確認。少額札を増やすのが最善。
Q3.荷物はどの程度に?
A. 72時間分の軽食・薬・充電は身につける。重い荷は宿預けで手ぶらの意思決定を。
Q4.幼児や高齢者がいる。優先すべきは?
A. 屋内の待機場所・近いトイレ・段差の少ない動線を最優先。最終便に頼らず前倒しで動く。
Q5.船酔い・車酔いが心配。
A. 酔い止めを出発1時間前に。視線は水平線、空腹/満腹を避ける。耳栓や薄荷飴も有効。
Q6.通信が混雑してつながらない。
A. SMS→音声→公衆通信の順に切替。短文定型を使い、位置共有は15分限定で節電。
Q7.島内の移動手段が止まった。
A. 徒歩分で結べる範囲に行先を絞る。相乗り・送迎バスは主催者の指示に従う。
Q8.宿が満室で延泊できない。
A. 別宿の予備連絡先へ当たり、役場・観光案内所に空室情報を相談。港・空港付近は早く埋まるため内陸側も検討。
用語辞典(やさしい言い換え)
- 多段ルート:島→隣島→本島のように乗り継いで出口を作る方法。
- 風裏:風が当たりにくい地形の陰。船が出やすい港。
- 機材繰り:飛行機や船の割当変更。遅れが連鎖しやすい。
- 一方通行連絡:返信を求めない短文を全員が同じ言葉で送る運用。
- 72時間キット:3日間を自力で乗り切る最小の食・薬・電源。
まとめ:出口を“いくつも”持てば、島旅は強くなる
足の二重化・宿の延長耐性・現金と通信の冗長化・代替ルートの地図化。この4点を出発前と到着15分で固めれば、欠航や閉塞が来ても迷わず動ける器ができます。並ぶ順より決める順。 それが、島しょ地域の交通寸断を乗り切るいちばんのコツです。