「揺れた瞬間に止まり、落ち着いたら安全に戻す」。 ガス機器の地震自動消火(感震遮断)は、火を出さない・漏らさないための多層の仕組みだ。
本稿では、ガスコンロ・給湯器・ガスメーター(マイコンメーター)・LPボンベまでを一枚の設計図に落とし込み、遮断の条件・作動の見分け方・正しい復旧手順・再点検のコツを、表と手順書で徹底整理する。読むだけで自宅の震災時運用マニュアルとして使える。
1.全体像をつかむ——どこで止まり、誰が復旧するのか
1-1.家庭のガス安全レイヤー
①機器内の自動消火(鍋検知・立ち消え・過熱)→ ②屋内機器の感震遮断(コンロ天板センサー等)→ ③メーターで一括遮断(マイコンメーター)→ ④供給側の止栓(LPボンベ/集合ガスメーター)。内側から順に安全を積み上げるのが基本思想だ。レイヤーが一つでも欠けると“止め忘れ”が生まれるため、家の装備の穴を最初に洗い出す。
家ごとの初期設定チェック(印刷して貼る)
項目 | やること | 記入欄 |
---|---|---|
メーターの場所 | 玄関脇/外壁/集合ボックスなど、写真を撮る | 写真あり/なし |
復帰ボタン | 位置と押し方を家族で実演 | 確認済/未 |
元栓 | コンロ・給湯器・ボンベの手回し位置を確認 | 位置メモ作成 |
換気 | 開ける窓・止める換気扇を決める | 決定済/未 |
連絡先 | ガス会社・販売店・管理会社の番号を扉裏に貼る | 記入済/未 |
懐中電灯 | メーターボックス近くに常備 | あり/なし |
1-2.担当の分かれ目
- 自分でできる:機器の火を消す/元栓閉止/メーターの復帰操作/室内の換気・目視点検。
- 業者・管理会社へ:臭い・シュー音・破損・水濡れがある/復帰操作でエラーが続く/**配管の揺れ痕跡(曲がり・擦れ)**が見える。
1-3.都市ガスとLPガスの違い
項目 | 都市ガス | LPガス(プロパン) | 備考 |
---|---|---|---|
供給 | 地中配管→各戸メーター | 屋外ボンベ→圧力調整器→屋内 | ボンベ転倒対策が要 |
メーター遮断 | マイコンメーター内で実施 | 調整器+メーターで同等機能 | 設置場所を先に把握 |
復帰 | メーター操作で可 | ボンベ周りの安全確認後に可 | 異常時は販売店へ連絡 |
臭いの特徴 | におい付けで気づきやすい | 同様に付臭 | 臭いを感じたら火気厳禁 |
地震強度別の基本対応
体感(例) | 対応の目安 | メモ |
---|---|---|
小さな揺れ(棚がカタカタ) | 火を弱め、様子を見る | 調理中は把手内向き |
中程度(物が少し落ちる) | 火を消す→元栓→換気→メーター確認 | より大きな揺れに備える |
大きい(立っていられない) | 身の安全最優先→落ち着いてから同手順 | 破損や臭いがあれば触らない |
2.“遮断条件”を理解する——揺れ・時間・ガス流量の三要素
2-1.代表的な遮断トリガー
仕組み | おもな検知 | 代表的な条件 | 作動例 |
---|---|---|---|
コンロ天板センサー | 鍋底温度・炎検知 | 過熱・立ち消え | 鍋が空焚き→自動消火 |
感震コンロ台/感震器 | 振動 | 一定以上の揺れ | 揺れで火を止める |
マイコンメーター | 振動+ガス流量+時間 | 強い揺れ/長い揺れ/異常流量 | 揺れ直後に家庭全体を遮断 |
圧力調整器(LP) | 圧力異常 | 過流・漏えい | 供給側で絞る |
数値は機種差があるが、大きな地震・長い揺れ・不自然な大量使用で遮断されやすい。
2-2.「なぜ止まるのか」を行動に結びつける
揺れ→火を消す→元栓閉止→換気→臭い確認→メーター確認。理屈を知ると復帰の順番を間違えない。遮断=安全が働いた合図であり、無理に回避しないことが重要。
2-3.誤作動・過作動を減らす配置
屋外メーターの固定・周辺片付け、ボンベの転倒防止チェーン、配管に荷物を寄せない。洗濯機・大型冷蔵庫の振動がメーターに伝わる配置は避ける。ベランダ植物の支柱が配管に当たらないかも確認。
作動しやすい状況の例
・夜間の長時間使用(給湯+暖房)で流量が大きいとき。
・揺れの余震が続くとき。
・屋外で強風と共振するとき(ボンベ架台・看板など)。
3.作動したら——安全確認と“正しい復帰”の台本
3-1.復帰フローチャート(文章版)
1)火気厳禁・換気(窓を開け、スイッチは切る側のみ)。
2)臭い・シュー音・破損が少しでもあれば使わない→販売店/管理会社へ。
3)異常がなければすべての器具のつまみを閉。
4)屋外のマイコンメーターのランプ(点滅/表示)を確認。
5)復帰ボタンを押して待つ→点滅停止で復帰。
6)一つずつ点火し、炎色・音・臭いを確認。
7)再遮断するなら原因切り分け(給湯器だけ/コンロだけ等)。
復帰時のNG行為(必ず守る)
行為 | なぜ危険か | 代わりにすること |
---|---|---|
窓を閉め切る | ガスがこもる | 先に換気し、火気厳禁 |
スイッチを入れる | 火花が出る恐れ | 切る側のみ操作 |
何度も連続復帰 | 故障や漏れを見落とす | 1回で戻らなければ点検へ |
3-2.マイコンメーターの見つけ方・触り方
項目 | コツ | 注意 |
---|---|---|
設置場所 | 屋外壁・玄関脇・メーターボックス内 | 低い位置で雨よけ内が多い |
見分け | 小窓に赤点滅やエラー表示 | LPは調整器周りも確認 |
復帰操作 | 復帰ボタン長押し→待機→点滅停止 | 待機中にバルブ音がすることあり |
マンション/戸建てでの探し方の違い
住まい | よくある場所 | 補足 |
---|---|---|
マンション | 玄関横のメーターボックス内 | 電気・水道と同居のことあり |
戸建て | 外壁沿い・駐車場わき | 夜間のために懐中電灯常備 |
3-3.器具別の異常サイン
器具 | よくあるサイン | 取るべき行動 |
---|---|---|
コンロ | 炎が黄・赤、異音、消えやすい | 使用中止→点検。天板下の油汚れも清掃 |
給湯器 | エラー番号、点火不良、排気音の変調 | 元栓を閉めて販売店へ |
ファンヒーター | 異臭、黒煙、点火に時間 | 電源OFF→抜栓→換気→点検 |
復旧のめやす時間(状況別)
状況 | 復帰可否 | めやす |
---|---|---|
揺れのみ・破損なし | 可能 | 数分〜10分(点検含む) |
余震が続く | いったん様子見 | 揺れが落ち着いてから |
破損・臭いあり | 不可 | 使用中止→連絡 |
4.日常の防御力を上げる——設置・固定・点検の“家ルール”
4-1.ボンベ・配管・メーターの固定
LPボンベは転倒防止チェーンと台座を確認。メーターボックスは余計な物を入れない。配管のラッキング(覆い)が傷んでいたら業者へ。日よけ・直射日光・冠水の対策も見直す。
LPボンベ固定・設置の目安
項目 | 推奨 | 理由 |
---|---|---|
チェーン高さ | ボンベ中央付近 | 上下の揺れに強い |
クリアランス | 周囲30cm以上 | 点検・放熱のため |
台座 | 平らで沈下しにくい材 | 転倒・傾きを防ぐ |
4-2.キッチンの安全設計
鍋底温度センサー付きコンロを選び、グリルの自動消火を活かす。鍋の把手は内向き、吊戸棚から物を減らす。耐震ラッチで落下物が炎へ落ちない工夫を。消火具(ふた・消火用シート)は手が届く位置に。
4-3.月次チェック表(玄関裏に貼る)
月 | メーター点滅なし | ボンベ固定 | 配管目視 | コンロ清掃 | 給湯器排気口 | 担当 |
---|---|---|---|---|---|---|
1月 | ○/× | ○/× | ○/× | ○/× | ○/× | |
2月 | ○/× | ○/× | ○/× | ○/× | ○/× | |
3月 | ○/× | ○/× | ○/× | ○/× | ○/× | |
… |
配管劣化の早見表
サイン | 例 | 対応 |
---|---|---|
擦れ | 支柱や鉢と接触 | 物を離す→点検依頼 |
ひび割れ | 被覆に細かな割れ | 早めに相談 |
さび | 金具が赤茶に変色 | 交換検討 |
5.想定外に備える——停電・長期不在・Q&A・用語
5-1.停電時の注意と併用機器
停電でもガスは使えることがあるが、給湯器やファンヒーターは電気が必要。復電時の誤作動を避けるため、スイッチは切っておく。感震ブレーカー(電気)とガス遮断の同時運用を理解しておく。
停電併発時の連携表
項目 | やること | 備考 |
---|---|---|
電気(感震ブレーカー) | 復帰は家の安全確認後に | 漏水・破損がないか先に確認 |
ガス(メーター) | 先に換気→臭い確認 | ガス臭があれば触らない |
水道 | 漏水があれば電気もガスも復帰しない | 元栓確認 |
5-2.長期不在・再開時の流れ
元栓を閉める→帰宅後は換気→臭い確認→メーター表示→ゆっくり再点火。給湯器の凍結が疑われる季節は水抜きも実施。再開時は一器具ずつ試し、炎色・音・臭いを観察する。
5-3.よくあるQ&A
Q:揺れは感じなかったのにメーターが止まった。
A:長時間使用や異常流量で遮断された可能性。器具のつまみを閉→復帰→再発なら点検。
Q:復帰ボタンを押しても戻らない。
A:臭い・音・水濡れがないか再点検。続く場合は業者へ。無理な再操作はしない。
Q:LPボンベを自分で触ってよい?
A:ボンベの開閉・チェーン確認程度に留め、調整器や配管は触らない。販売店へ相談。
Q:地震直後、まず何をする?
A:身の安全→火を消す→元栓→換気→臭い確認→メーター表示の順。電気の火花にも注意。
5-4.用語辞典(平易な言い換え)
地震自動消火/感震遮断:揺れなどを検知して自動で火やガスを止める仕組み。
マイコンメーター:ガスの振動・流量・時間を見て、危ないときに止めるメーター。
立ち消え安全装置:炎が消えたら自動でガスを止める機能。
圧力調整器:LPガスの圧力を一定に保つ装置。
元栓:機器や部屋ごとにある手で回せるバルブ。
漏えい検知:におい・音・メーター表示で気づくサイン。
逆止弁:逆流を防ぐ弁。風や負圧時の逆流を防ぐ。
一次配管/二次配管:屋外の主な配管と、宅内へ入った後の配管の呼び分け。
まとめ
地震時のガス安全は、機器→屋内→メーター→供給側の多層防御で成り立つ。遮断の理屈を理解し、復帰の台本を家族で共有すれば、焦らず・急がず・安全に日常へ戻れる。今すぐ、メーター位置の再確認→家族への共有→月次チェック表の貼付から始め、LPボンベと配管の目視点検を今日の家事に加えよう。