地盤の強弱を地図で読む方法|旧河道・盛土の判別ガイド【保存版】

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防災
  1. まず結論:地図で“弱さのサイン”を複数重ねて見る
    1. 一枚で判断しない
    2. 弱さの代表サイン
    3. 判読の手順(最短ルート)
  2. 基本の読み取り①|色別標高図と陰影起伏図
    1. 色別標高図:色の急変は“段差”のサイン
    2. 陰影起伏図:光と影で微地形を立体化
    3. 傾斜量図:緩斜面の広がりが示すもの
    4. 補助図の活用(等高線・縦断プロファイル)
  3. 基本の読み取り②|土地条件図・古地図・空中写真
    1. 土地条件図:成り立ちで“弱点”を知る
    2. 古地図・迅速測図:昔の水の通り道を探す
    3. 空中写真:盛土と造成の年代を読む
    4. 図面と台帳(余裕があれば)
  4. 旧河道と盛土を見分ける|実践の着眼点
    1. 旧河道(昔の川筋)の見つけ方
    2. 盛土(埋め立て/谷埋め/斜面造成)の見つけ方
    3. フィールドでの確かめ方(五感チェック)
    4. 典型的な誤読と修正のコツ
  5. 判読の精度を上げる“重ねワザ”とチェック表
    1. 三点重ねの原則
    2. 旧河道・盛土・台地の比較表
    3. 微地形と典型被害の対応表
    4. 早見:危険シグナルと対処
  6. 住所から弱点を推測する|地名・区画・施設
    1. 地名のヒント
    2. 区画・道路の形
    3. 施設配置
  7. 実践シナリオ|引っ越し・購入・防災計画
    1. 住まい選び(一次判定15分)
    2. 現地確認(30〜60分)
    3. 既存居住地の備え
    4. ケーススタディ(簡易)
  8. シーン別チェックリスト(印刷用)
    1. A:購入前の一次判定(10項目)
    2. B:現地確認(15項目)
  9. Q&A(よくある疑問)
  10. 用語辞典(やさしい言い換え)

まず結論:地図で“弱さのサイン”を複数重ねて見る

一枚で判断しない

地盤の強弱は一つの地図だけで決めないのが鉄則だ。色別標高図・陰影起伏図・土地条件図・古地図・空中写真最低3種類重ね、同じ場所に弱さのサインが繰り返し出るかを確認する。地図ごとに見えるものが異なるため、重ねて一致した所=優先確認点と覚えると早い。

弱さの代表サイン

  • 旧河道(昔の川の流路):細長い低地、うねる帯状の色分布、馬蹄形の凹み(河跡湖)
  • 盛土(埋め立て/造成):区画が新しく直線的、周囲より色が急変、段差の多い街路、等高線の“切断”
  • 扇状地の末端・三角州:広く緩い傾斜、帯状の砂れき層、扇端の湧水線
  • 谷埋め・谷頭:袋小路、階段状の造成、細い谷が突然消える場所。
  • 自然堤防と後背低地:川沿いに細い盛り上がり(堤)と、その背後の湿地状の帯

判読の手順(最短ルート)

1)色別標高図で低地と段差を見る→
2)陰影起伏図/傾斜量図で微地形を浮かす→
3)土地条件図で成り立ちを確認→
4)古地図/迅速測図で昔の川と湿地を特定→
5)空中写真で造成時期・盛土痕跡を追う→
6)現地で段差・水路跡・地名・擁壁を照合。


基本の読み取り①|色別標高図と陰影起伏図

色別標高図:色の急変は“段差”のサイン

連続する色の中に細い帯状の低い色が入り込む場所は、旧河道や谷筋の可能性が高い。住宅地の中でミミズのように曲がる低地は要注意だ。色の境目が直線的に切れる場合は、造成で切り立てた法面のことが多い。同色でも“島”のような色むらが点在する所は、小さな凹凸と水はけの偏りがある合図。

陰影起伏図:光と影で微地形を立体化

陰影をつけた図では、砂州の筋、段丘の縁、浅い凹みが浮き上がる。縁(エッジ)に沿って家が並ぶ地区は崩れやすい境界を含む。暗い帯が長く続くところは低湿地・水はけ不良の目印。縦横に並ぶ筋(畦跡)は埋め立て田のことが多く、不同沈下の素因になりやすい。

傾斜量図:緩斜面の広がりが示すもの

緩い傾斜が扇状に広がるときは扇状地末端側ほど細かい水路が刻まれやすい。扇端の微段差湧水線となり、液状化や地盤沈下のリスクが相対的に高まる。わずかな傾きが一定方向に続く団地は、盛土の厚さ変化が背景にある場合がある。

補助図の活用(等高線・縦断プロファイル)

等高線の間隔が急に狭く/広くなる境は、人工的な切土・盛土の疑い。主要道路の**縦断線(坂の起伏)を頭に入れておくと、現地で水が集まりやすい“底”**を見つけやすい。


基本の読み取り②|土地条件図・古地図・空中写真

土地条件図:成り立ちで“弱点”を知る

地形の成因(氾濫原・三角州・谷底低地・台地・段丘・山地)が分かる図。氾濫原・三角州・谷底低地は一般に軟らかく沈下しやすい。逆に台地・段丘は相対的に硬いが、縁(段丘崖)は崩れに注意。自然堤防はわずかに高く家が早く建ちやすいが、背後の後背低地は排水の遅れが残る。

古地図・迅速測図:昔の水の通り道を探す

明治期の地図や古い住宅地図で、川・沼・田畑・葦原の位置を探す。今は道路や家でも、**地名に“川・堀・沼・谷・田・新田・洲”が残っていれば、水に関わる低地だった可能性が高い。橋名だけが残る交差点、堤・渡の名も手掛かり。河岸段丘の縁は、地名に“際・端・台・上/下”**が混じることがある。

空中写真:盛土と造成の年代を読む

造成直後の筋や色むら斜面の格子状補強切土法面の直線は、盛土/切土の証拠。埋立地では岸線の人工的な直線護岸が判別に使える。年代を追って色の変化を見ると沈下の痕跡が読めることもある。新旧の屋根色と道路の継ぎ目の差もヒントになる。

図面と台帳(余裕があれば)

時間がとれるなら、造成の完了年・区画整理の有無下水幹線やポンプ場の配置も確認。幹線が集まる低所は、水が集まりやすい必然がある。


旧河道と盛土を見分ける|実践の着眼点

旧河道(昔の川筋)の見つけ方

  • 帯状に曲がる低地:色別標高図で“青〜緑の細帯”。
  • 道路のわずかな蛇行:古い川に合わせて道がクネる
  • 橋名・水名の地名:○○橋、△△川町、□□堀。
  • 雨時の水たまりの並び段差に沿う長い水たまり。
  • 細い緑道/公園の直線暗渠化した川が通る。

盛土(埋め立て/谷埋め/斜面造成)の見つけ方

  • 区画が急に新しく直線的:旧市街から直線の街路が食い込む。
  • 段差と擁壁の連続:同じ高さの擁壁が長く続く
  • 宅地の等高線が切れている:尾根や谷を直線で切断
  • 造成端の“段差ライン”:宅地が帯状に一段高い/低い
  • 谷頭の団地袋小路の奥が平坦で、外周は擁壁

フィールドでの確かめ方(五感チェック)

1)足元の傾き:交差点で水が集まる方向を見る。
2)擁壁と排水水抜き穴の多さ、白い流下跡
3)マンホールの高さ路面と段差が連続していないか。
4)樹木の生え方:低地に柳・ハンノキなど湿地性が多い。
5)地名の看板:橋・堀・洲・新田の名残を探す。
6)住宅の基礎周り犬走りの割れ門柱の傾き

典型的な誤読と修正のコツ

  • 低地=全部危険と短絡 → 成因と改良の有無で差が大きい。
  • 台地=全部安全と油断 → 段丘崖・谷頭・法面は別の危険。
  • 緑道=安全な散歩道暗渠の直上かもしれない。

判読の精度を上げる“重ねワザ”とチェック表

三点重ねの原則

  • 地形(標高):色別標高図・陰影起伏図
  • 成因(地質):土地条件図
  • 歴史(人手):古地図・空中写真
    この三層が一致したら、地盤弱の可能性が高いと判断する。どれか一つが反対なら、現地で追加確認をする。

旧河道・盛土・台地の比較表

指標旧河道盛土台地/段丘
色別標高図細い低地の帯周囲と色が急変同色が広がる
陰影起伏ゆるい溝状の影直線的なエッジ緩やかな面
土地条件氾濫原・谷底低地造成・埋立台地・段丘
空中写真蛇行跡・湿地跡擁壁・格子補強古くからの宅地
現地手掛かり地名・橋名・暗渠擁壁・段差・新しい配管古い神社・寺が高所に

微地形と典型被害の対応表

微地形起こりやすい事象予防の考え方
後背低地・谷底液状化・長期湛水高床・排水路の確保/避難経路は高所へ
旧河道不同沈下・管路の段差基礎形式の吟味/上下水の経路確認
扇状地末端湧水・床下浸水透水層と粘土層の位置を意識/外構排水強化
段丘崖縁がけ崩れ・擁壁変状建物の離隔/法面点検・植生管理

早見:危険シグナルと対処

シグナル何を示す対処の方向性
雨後に同じ場所で水たまり透水性が低い/沈下排水経路・暗渠の確認
擁壁のクラック/白筋水圧・排水不良点検・水抜き強化
道路の波打ち地盤沈下・盛土圧密施工履歴・補修記録の確認
縁石や門柱の傾き局所沈下地盤改良や再据え付け検討

住所から弱点を推測する|地名・区画・施設

地名のヒント

川・堀・谷・沼・田・新田・洲・浜などの字を含む場合、水と関係の深い地形を示すことが多い。“台・丘”は高所を示すが、崖縁の近くは別のリスクがある。“崎・端・際・瀬”は段差や水際を示すことがある。

区画・道路の形

斜めに走る一本の直線(緑道/細公園)は暗渠の可能性。周囲より若い区画が食い込む境界は造成ライン袋小路の先が低いのは谷頭埋めの兆候。十字路で一辺だけ低いのも、水の通り道の証拠になりうる。

施設配置

古い神社・寺・小学校水の来にくい高所に立つ例が多い。ポンプ場・水再生センター・貯留池低所に置かれがちで、周辺は低湿地のことがある。用水路の分岐も低地の目印。


実践シナリオ|引っ越し・購入・防災計画

住まい選び(一次判定15分)

1)住所の色別標高図で段差と低地を把握。
2)土地条件図で地形成因を確認。
3)古地図で川・田の有無を見る。
4)気になる場所は空中写真の年代比較で造成時期を特定。
5)最寄りの避難先の高さも同時に確認。
6)候補ごとに**“弱さの一致回数”**を数え、多い順に現地優先

現地確認(30〜60分)

  • 擁壁・排水:水抜きの数と傾き、錆・白華の有無。
  • マンホール・縁石の段差:連続性の有無、蓋の浮き
  • 雨の日ルート:水が集まる道を観察、側溝の詰まり
  • 地名の掲示:古い橋名や水名の痕跡。
  • 地表の土質感:砂っぽい/粘る、乾き方の差

既存居住地の備え

  • 外構排水の見直し:雨どい→地中配管の勾配、集水桝の位置
  • 地盤改良や小規模杭の検討(新築・増築時)。
  • 室内の転倒防止:段差近くの家具に注意。
  • ハザード想定の避難計画水の通り道を横切らない高所ルート。
  • 駐車場の舗装:透水・排水の両立(水が溜まる凹みの補修)。

ケーススタディ(簡易)

立地地図の所見現地所見判断・対策
川沿いの帯状低地色別で細い青帯/古地図で旧川雨後の水たまりが線状排水強化・基礎確認・避難高所確保
台地の縁の団地陰影で鋭い縁/擁壁連続法面に白筋/水抜き少擁壁点検・離隔確保・樹木管理
扇状地末端の住宅地傾斜緩/土地条件で扇状地湧水跡・苔外構排水・床下換気・高基礎

シーン別チェックリスト(印刷用)

A:購入前の一次判定(10項目)

  1. 色別標高図で低地帯か
  2. 陰影起伏で凹み・縁がないか
  3. 土地条件図の成因は何か
  4. 古地図に川・田の記載があるか
  5. 空中写真の造成時期は新しいか
  6. 暗渠らしき直線緑道があるか
  7. 擁壁が連続していないか
  8. 地名に水・谷の字があるか
  9. 近くの学校・寺社の位置は高所か
  10. 最寄り避難先の標高は十分か

B:現地確認(15項目)

  1. 雨どい→排水の流れ
  2. 水抜き穴の数と向き
  3. 門柱・フェンスの傾き
  4. 路面・縁石の波打ち
  5. マンホールの段差
  6. 雨後の水の引きの早さ
  7. 低い所に苔・湿りが残るか
  8. 側溝の詰まり・勾配
  9. 交差点の一辺だけ低いか
  10. 造成端の段差ライン
  11. 擁壁の白華・クラック
  12. 近隣の地名標識
  13. 公園の地形(窪地/盛土)
  14. 砂っぽい/粘土っぽい土
  15. 井戸・湧水の有無

Q&A(よくある疑問)

Q1.色別標高図で低地でも、必ず弱いの?
A.相対的に弱い可能性があるが、地盤改良・基礎形式で差が出る。土地条件図と古地図も合わせて判断し、現地排水を確認する。

Q2.盛土は全部危険?
A.設計・施工が適切なら安全に使われている例も多い。ただし谷埋め・厚い盛土・擁壁連続点検の優先度が上がる。造成の完了年と維持管理も見る。

Q3.液状化はどこで分かる?
A.低地・砂地・埋立地が候補。河口・三角州・海沿いの人工地は注意。粒度(砂分)と地下水位が影響するため、周辺の地歴・地名・湧水で補強判断を。

Q4.安全な“台地”を選べば万全?
A.段丘崖・谷の縁は崩れの別リスク。斜面上の擁壁崖条例の対象もある。台地内の窪地谷頭も確認を。

Q5.自分で判断しきれない…
A.最初は弱いサインを集める役に徹し、図を印刷して付箋で気になる箇所を示し、専門家や自治体窓口へ持ち込む。**写真(雨後・晴天)**を添えると説明が速い。

Q6.地盤が弱そうでも住み続けたい
A.外構排水・床下換気・家財固定など減災の工夫でリスクは下げられる。避難計画保険の見直しも同時に行う。


用語辞典(やさしい言い換え)

旧河道昔の川の流れ。今は道や家でも、地面は水にゆるいことがある。
盛土(もりど)土を盛って高くした地面。谷や斜面を平らにする。
切土(きりど)高い所を削って低くする工事
段丘・台地高く平らな地形。縁は急な斜面
氾濫原川があふれると水が広がる低地
自然堤防:川沿いに少し高くなった土の帯
後背低地:自然堤防の背後に広がる低湿地
暗渠(あんきょ)地中に埋めた水路。地表は道や緑道になることがある。
湧水線水がしみ出しやすい境目。扇状地の端など。
不同沈下:家や道路が場所ごとに違って沈むこと。


まとめ
地盤の強弱は、色(標高)・影(微地形)・歴史(成因/古地図)の三点重ねで読むと精度が上がる。旧河道・盛土・谷埋めのサインが重なる場所は、排水・擁壁・段差を重点確認しよう。住まい選びでも防災計画でも、弱さを知る=逃げ道を先に描くことだ。今日、地図を3種類開き、自宅と通勤通学ルートで“細い低地”と“直線の段差”を探すことから始めよう。

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