日本は地震大国。歴史的事実としての東日本大震災(2011)と、将来高確率で想定される南海トラフ地震は、いずれも国土と社会を長期に揺さぶる規模です。本稿は、マグニチュード(規模)、震度(揺れの強さ)、津波の特性、被害と経済波及、そして個人・地域・企業が今やるべき対策を同じ物差しで整理し、“どっちが強いのか”を行動に翻訳します。
数値は概念理解を助けるための代表値・目安であり、地域ごとの公式想定で必ず上書きしてください。最後に、初動72時間の行動テンプレ、在宅継続の装備リスト、企業BCPの段階表も付し、今日から準備を前進させる構成にしました。
1. 東日本大震災と南海トラフの基本情報
1-1. 東日本大震災(2011)の要点
- 2011年3月11日 14:46発生。震源は三陸沖(宮城県沖)。
- マグニチュード9.0(当時の日本観測史上最大)。
- 最大震度7(宮城県北部)。
- 津波最大級の遡上約40mの観測事例があるほど強大。
- 死者・行方不明 約1.8万人規模、原子力事故を伴い長期的影響へ拡大。
- 長期の停電・燃料不足・物流寸断が全国へ波及。
1-2. 南海トラフ地震(将来想定)の要点
- **今後30年で発生確率70〜80%**と評価される広域の海溝型地震。
- 震源域は駿河湾〜四国沖〜九州東方沖に連なるトラフ。
- 想定M8.0〜9.0クラス、最大震度7の地域が広範囲に及ぶ可能性。
- 津波最大30m以上が想定される沿岸も(高知・和歌山など)。
- 最悪ケースで死者数十万人級、経済損失は国家規模の試算がある。
- 東海〜近畿の都市・産業集積が重なるため、社会機能の長期低下が懸念。
1-3. 比較の前提と読み方
- **M(規模)と震度(局所の揺れ)**は別物。同じMでも震度分布は地盤や距離で変わる。
- 津波は地形と到達時間が勝負。**“より早く・より高く”**の原則で行動設計する。
- 被害は揺れ×津波×二次災害(火災・原子力・土砂・長期停電)の連鎖で決まる。
基本情報の概観(代表値の比較)
項目 | 東日本大震災(2011) | 南海トラフ地震(想定) |
---|
規模(M) | 9.0 | 8.0〜9.0 |
最大震度 | 7 | 7(広域で複数発生の可能性) |
津波 | 最大遡上約40m | 最大30m以上の想定地点あり |
影響範囲 | 東北〜関東広域 | 東海・近畿・四国・九州など極広域 |
特徴 | 津波+原子力災害 | 短時間到達の津波+長期ライフライン障害 |
2. 規模・揺れ・影響範囲の比較
2-1. マグニチュードの比較と意味
- 東日本大震災はM9.0。南海トラフはM8後半〜9.0級が想定され、エネルギー規模は同等〜同程度の可能性。
- Mが0.2上がると放出エネルギーは約2倍のイメージ。M1.0の差は約32倍。M9級は桁違いで、余震規模も大きく長期化しやすい。
- 規模が同等でも、震源の位置・深さ・破壊の広がりで体感と被害は大きく変わる。
Mとエネルギーの目安(概念)
比較 | エネルギー比の目安 | 参考メモ |
---|
M差 +0.2 | 約2倍 | 規模差が小さく見えても大きな違い |
M差 +0.5 | 約5.6倍 | 余震の強さ・回数にも影響 |
M差 +1.0 | 約32倍 | 社会的影響は桁違いに拡大 |
2-2. 震度分布と地盤・構造の影響
- 東日本は沖合震源ゆえ広域に強震が及び、長周期成分が高層に効いた。
- 南海トラフは陸地近傍の広域震源で、短周期の強い揺れが増え、震度7が複数の可能性。液状化や斜面災害も重なる。
- 同じ市内でも地盤で震度が変わる。扇状地・埋立地は揺れが増幅しやすく、建物の固有周期によって被害様相が変化。
揺れ・被害の着目点(早見表)
観点 | 東日本大震災 | 南海トラフ(想定) |
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震源距離 | 沖合 | 沿岸〜内陸近傍 |
周波数 | 長周期も顕著 | 短周期強い+長周期も併存 |
震度7 | 限定的 | 複数域の可能性 |
二次災害 | 津波・原子力 | 津波・大規模停電・液状化・土砂 |
2-3. 影響範囲の“質”の違い
- 東日本:広域の津波・原子力災害・物流寸断で全国的な物資滞りへ。
- 南海:三大都市圏の一角(東海〜近畿)が直撃圏に入り、供給網・電力・交通の国家レベルの同時障害が懸念。
- 港湾・空港・幹線道路・新幹線の重複障害は、救助・物資輸送を遅らせる要因に。
3. 津波リスクの比較と到達時間
3-1. 東日本の津波特性(2011)
- 湾形状・海底地形の増幅で、想定を上回る高遡上が発生。
- 到達までの猶予に地域差。“戻らない”原則の重要性が明確に。
- 陸上遡上・河川遡上が多くの地点で確認され、堤防越流後の浸水継続が広域化。
3-2. 南海トラフの津波(想定)
- 高知・和歌山などで最大30m以上の津波が想定され、最短数分で到達する沿岸も。
- 河川遡上・谷筋加速で内陸浸水が拡大。橋・堤防・切通しはボトルネックになり得る。
- 湾奥・内湾都市は津波+高潮+内水の重なりで長時間の浸水を引き起こす可能性。
3-3. 避難の“時間設計”とルート現実化
- 徒歩優先で**“より高く・より早く”**が鉄則。車は渋滞と延焼でリスクが跳ね上がる。
- 避難ビルの鍵・屋上導線・夜間照度を平時に実見し、所要分数を身体化する。
- 橋回避・谷筋回避を合言葉に、尾根筋・台地へ抜ける歩行ルートを昼夜・晴雨で確認。
津波到達の目安と行動(概念整理)
沿岸タイプ | 到達目安 | 主要ハザード | 即時行動の核 |
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外洋直面(太平洋岸) | 数分〜十数分 | 高遡上・漂流物衝突 | 揺れ収束→即徒歩で高所 |
湾奥・河口 | 十数分〜30分 | 長時間浸水・逆流 | 橋回避・谷筋回避・避難ビル |
内湾都市 | 十数分〜1時間 | 津波+高潮+内水 | 止水板・土嚢→垂直避難 |
4. 被害想定と経済・社会への波及
4-1. 人的・物的被害の比較
- 東日本:死者・行方不明 約1.8万人規模、住宅・公共施設の広域喪失。
- 南海:最悪で数十万人規模の死者想定が議論され、家屋倒壊+津波浸水+長期停電の複合が鍵。
- 医療アクセスは、道路途絶・燃料不足で低下。基幹病院の機能維持が生死を分ける。
4-2. 経済損失・サプライチェーン
- 東日本:電力・港湾・道路・鉄道の障害で全国の製造・物流が停滞。
- 南海:中京・関西の産業集積が直撃されると、輸出入・自動車・機械・医療品まで国際的供給へ波及。
- 港湾(積出)・工業団地・データセンターの立地と冗長性が復旧の速度を左右。
4-3. 社会・生活機能の長期影響
- 長期避難・在宅困難・医療アクセス低下、教育・雇用・観光まで影響が及ぶ。
- 情報・通信・決済の停滞は企業活動と個人の生活再建を遅らせる。
- 心理的ストレス・風評・デマへの対策も不可欠(一次情報の確認・公式発信の共有)。
被害・経済の概念比較(要点)
観点 | 東日本大震災 | 南海トラフ(想定) |
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人的被害 | 数万人規模 | 数十万人の最悪想定 |
経済損失 | 国家規模だが段階的回復 | 国家・国際供給網に長期波及 |
生活再建 | 津波被災地で長期化 | 都市圏直撃で広域長期化 |
5. いま取るべき現実的な対策(結論:どっちが強い?を行動へ)
5-1. 結論|“どっちが強いか”の答え方
- 規模(M)は同程度になり得る。
- 被害ポテンシャルは、南海トラフが東日本を上回る可能性(広域の震度7+短時間到達の津波+都市・産業集積直撃)。
- ただし地域の備えと初動しだいで被害は大きく変わる。行動が最大の変数。
5-2. 初動72時間の行動テンプレ(家庭・個人)
時間軸 | 目的 | 行動の核 | 補足 |
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0〜10分 | 生存 | 頭部保護→出火確認→扉開放 | ガス遮断、揺れ収束で徒歩避難開始 |
10分〜1時間 | 退避 | 橋・谷筋回避で高所へ | 夜間はヘッドライト必携、車は使わない |
1〜24時間 | 体制化 | 安否共有・水と衛生の確保 | 合流地点固定、情報は公式とラジオ優先 |
24〜72時間 | 維持 | 在宅継続の四本柱を運用 | 水・簡易トイレ・電源・情報の循環 |
5-3. 在宅継続の装備リスト(家族人数で増やす)
分類 | 例 | 目安 | 運用のコツ |
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水 | 飲料水・生活水 | 1人1日3L×7日 | 分散保管、ローリングストック |
衛生 | 簡易トイレ・除菌・手袋 | 1週間分 | におい対策袋・手洗い動線 |
電源 | モバ電・発電機・電池 | スマホ充電×7日 | 充電ルーチン、ソーラー併用 |
情報 | ラジオ・充電ケーブル | 家族分 | 予備電池・予備ケーブルを束ねる |
食 | 主食バー・レトルト | 3日→7日へ拡張 | 調理不要優先、アレルギー配慮 |
5-4. 家庭・個人がきょうやる3ステップ
- 寝室の安全化:大型家具固定、ガラス飛散防止、通路確保。
- 徒歩避難の身体化:高台・避難ビルまで昼夜・雨天で実歩、家族の合図と言葉を固定。
- 在宅継続の棚卸し:水・衛生・電源・情報の不足分を今日埋める。
5-5. 企業・学校・地域の多層BCP(段階表)
層 | 目的 | 主要施策 | 成功指標 |
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拠点分散 | 単一障害の回避 | 代替オフィス・遠隔勤務・分散倉庫 | RTO/ RPOの短縮 |
ライフライン | 断絶の緩和 | 非常電源・燃料・給水・止水板 | 連続稼働時間(h) |
物流・調達 | サプライ維持 | 代替ルート・在庫増・地産地消 | 欠品率の低下 |
人員運用 | 安全と継続 | 安否確認・代替要員・在宅勤務訓練 | 出勤率/稼働率 |
コミュニケーション | 判断迅速化 | 指揮系統・広報・多言語対応 | 連絡到達率 |
5-6. 合図と言葉の固定(家庭・職場共通)
- 合図:「今から徒歩で上へ。合流はA地点。」
- 返事:「了解。車は使わない。B階段で向かう。」
- 確認:「到着したら**“着”**と送る。戻らない。」
6. ケーススタディとFAQ(誤解しやすいポイント)
6-1. ケーススタディ|沿岸・内湾・内陸での違い
- 外洋沿岸の町:到達が早い。揺れが収束したら即上へ。車は使わない。
- 内湾の都市:津波+高潮+内水が重なり長時間浸水。止水→垂直避難の順で。
- 内陸の平野:液状化・長期停電を前提に在宅継続を厚くする。
6-2. FAQ
- Q. Mが同じなら被害は同じ? → 違います。 震源位置・地盤・建物・継続時間で被害は変わる。
- Q. 高層で大きく揺れたのに震度が低いのは? → 長周期地震動の影響。指標の役割が違う。
- Q. 津波が見えなくても避難は必要? → 必要。 発生源・地形で到達と高さは大きく変動。**“戻らない”**が鉄則。
まとめ
**“どっちが強いか”**は、数字の勝ち負けではなく、あなたの行動設計で結果が変わるという意味です。南海トラフは被害ポテンシャルが極めて大きい一方、**今日の15分(寝室の安全化・避難ルートの実歩・在宅継続の棚卸し)**で、あなたのリスクは具体的に下がります。数値を行動に翻訳し、家族・地域・職場で同じ“合図”を共有しましょう。