介護中の避難を安全に行う方法|移乗・階段・夜間ガイド

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防災

要介護の家族と避難する状況では、1回の移乗・1段の段差・1本の手すりが生死を分けます。焦りは禁物ですが、段取りさえ整っていれば動きは驚くほど軽くなります。

本記事は、在宅介護・通所前後・夜間の見守りといった日常の延長で、いざという時に“そのまま実行できる”避難手順を、移乗・階段・夜間の3本柱に、役割分担・医療への配慮・持ち出しを加えて体系化。数値の目安・声かけの型・導線設計・道具配置までまとめました。


  1. まず押さえる安全原則:倒れない・詰まらない・迷わない
    1. 介助の基本姿勢と合図(体を守る)
    2. 動線の事前設計(詰まらない)
    3. 視覚と合図(迷わない)
    4. 初動10分のタイムライン(家族2名想定)
      1. 避難原則の早見表
  2. 移乗を安全に:ベッド⇄車いす⇄玄関椅子の“最短導線”
    1. ベッドからの立ち上がり(合図と重心移動)
    2. スライドボード移乗(段差ゼロ・摩擦を減らす)
    3. 車いすのセッティング(“近く・斜め・ブレーキ”)
    4. 非立位での移乗(立てない・痛みが強い時)
      1. 移乗のチェックリスト(印刷用)
      2. よくある失敗と対処
  3. 階段・段差の越え方:1段ずつ、落ちない仕組みで
    1. 上り:前向き・三点支持・短い合図
    2. 下り:後ろ向き・二人介助・腰ベルト
    3. 車いすでの小段差越え(玄関の敷居など)
    4. スロープ・仮設板の使い分け
      1. 段差越えの早見表
  4. 夜間・停電・悪天候:見える・聞こえる・冷えない
    1. 足元灯と合図の二重化(光+音)
    2. 防寒・保温(低体温の回避)
    3. 雨・雪の日の足元(滑らない)
      1. 夜間持ち出しセット(玄関椅子に吊る)
  5. 役割分担・動線・持ち物:時間で切ると混乱しない
    1. 役割分担(主・副・予備)
    2. 動線の固定(日常から同じ動きに)
    3. 持ち物の最小セット(両手は空ける)
      1. 介護避難の準備表(家庭用)
  6. 医療・服薬・衛生:中断させない工夫
    1. 服薬の継続
    2. 医療機器の扱い(在宅酸素・ストマなど)
    3. 衛生の基本
  7. 認知症・見当識のゆらぎへの配慮
    1. 声かけの型
    2. 不安・興奮への対応
    3. 迷子防止
  8. ケーススタディ:3世帯の実践
    1. 例1:片麻痺・杖使用(戸建・段差10cm)
    2. 例2:電動車いす(マンション・停電)
    3. 例3:夜間・大雨・二人介助(狭い廊下)
  9. Q&A(よくある疑問)
  10. 用語辞典(やさしい言い換え)
  11. まとめ:段取りが介助者と家族を守る

まず押さえる安全原則:倒れない・詰まらない・迷わない

介助の基本姿勢と合図(体を守る)

  • 重心は低く・広く:足は前後に開き、膝・股関節を曲げて腰をそらさない。
  • 持ち上げない・ねじらない・引っ張らない滑らせて移すが基本。
  • 合図は短文1語×2回:「立ちます→立ちます」「回ります→回ります」。
  • 触る場所骨に近い部位(肩甲骨・骨盤)を広い面で支える。

動線の事前設計(詰まらない)

  • 寝室→廊下→玄関→屋外の直線を優先。角の家具・マットは撤去。
  • ドアは避難方向へ開く引き戸は戸車の潤滑を確認。
  • 回転スペースは直径150cmが理想。最低でも130cm確保。

視覚と合図(迷わない)

  • 足元灯・蓄光テープ段差・角を可視化。矢印は床と腰高の二重
  • 笛・合図ライト寝室入口・玄関に常備。夜間は声+光+触覚で。

初動10分のタイムライン(家族2名想定)

1)0〜2分:安否確認・合図統一(短文二度)。
2)2〜4分:動線の障害物を撤去、足元灯点灯。
3)4〜7分:ベッド→車いすへ移乗(または玄関椅子へ)。
4)7〜10分:玄関で上着・ケープ・連絡カードを装着、外へ。

避難原則の早見表

項目最低目安推奨値備考
回転スペース130cm150cm車いす・介助で切返し不要
通路幅80cm90cmすれ違いは180cm
手すり高さ75cm80cm前後連続・端部丸め
スロープ勾配(屋内)1/121/15上下端に50cm水平部
スロープ勾配(屋外)1/151/20雨・霜で緩める
合図短文1語×2回人ごとに固定例:立ちます/止まります

移乗を安全に:ベッド⇄車いす⇄玄関椅子の“最短導線”

ベッドからの立ち上がり(合図と重心移動)

1)合図:「起き上がります→起き上がります」。
2)側臥位→端座位:肩甲骨と骨盤を同時に支え、足は床へ
3)体前傾→立ち上がり鼻が足先より前へ。膝に手を置かせると踏ん張りやすい。

スライドボード移乗(段差ゼロ・摩擦を減らす)

  • 高さ合わせ:ベッド座面=車いす座面±2cm以内
  • ボード角度やや下りに設定して滑走補助。
  • 骨盤を先に移す肩をついてくるの順で、頭は最後

車いすのセッティング(“近く・斜め・ブレーキ”)

  • **ベッドに斜め30°**で近づけ、フットレストは跳ね上げ
  • ブレーキ→肘掛外す→足位置の順。膝が当たる障害物を先に除去。

非立位での移乗(立てない・痛みが強い時)

  • 回転クッションすべり布を活用し、骨盤→肩→頭の順に横移動
  • 腰ベルトで体幹を保ち、ねじらず水平移動を徹底。

移乗のチェックリスト(印刷用)

工程できたメモ
合図の確認(短文二度)
座面の高さ合わせ(±2cm)
ブレーキ・フットレスト処理
骨盤→肩→頭の順
体前傾(鼻>つま先)
すべり布・回転具の準備

よくある失敗と対処

失敗例原因対処
途中で腰が落ちる座面差・摩擦が大高さ±2cmに調整、滑り材追加
膝が当たって痛がる車いすの角度不良**斜め30°**へ調整、クッション配置
肘掛が邪魔事前処理不足外す→固定の順で準備

階段・段差の越え方:1段ずつ、落ちない仕組みで

上り:前向き・三点支持・短い合図

  • 合図:「上がります→上がります」。
  • 手すり+杖+足三点支持一段一呼吸で脈と息を合わせる。
  • 介助者は半段下の位置で骨盤帯を支える。

下り:後ろ向き・二人介助・腰ベルト

  • 原則は二人要介護者は前向き介助者は背後から骨盤・胸郭を支える。
  • 腰ベルト(移乗ベルト)ですべり落ちを封じる
  • 一段ごと停止し、合図→足位置→体幹の順。

車いすでの小段差越え(玄関の敷居など)

  • 前輪を軽く上げてから押し、後輪で押し切る
  • 足置きは跳ね上げつま先の挟みを防ぐ。
  • 声かけ:「段差です→行きます」。

スロープ・仮設板の使い分け

  • 段差10cmで長さ120cm(1/12)が目安。屋外は1/15〜1/20に。
  • 縁の立ち上がり5cmで脱輪を防止。上下端各50cmの水平部を。

段差越えの早見表

方法強み注意点向く場面
手すり+杖設備が少なく即実行体力負担あり室内の小段差
二人介助安定・安全人手が必要階段の下り
スロープ連続移動が容易距離・設置場所玄関・屋外
仮設板すぐ用意できるたわみ・滑り一時的な通路

夜間・停電・悪天候:見える・聞こえる・冷えない

足元灯と合図の二重化(光+音)

  • 停電点灯タイプ足元灯寝室・廊下・玄関に。
  • ヘッドライト両手を空けるため必須。3回で緊急の合図に統一。
  • スマホのライト予備。主役は頭に付く光

防寒・保温(低体温の回避)

  • 避難用ケープひざ掛けを玄関椅子に常備。
  • 銀色の保温シート肩から腰を先に包む。
  • 濡れを拭く→新しい靴下の順で足から温める
  • 飲み物常温の甘い物が体にやさしい。

雨・雪の日の足元(滑らない)

  • 滑り止め付きサンダル玄関内側に。
  • 玄関スロープ縦溝ゴムマット
  • 車いすのタイヤ水切り玄関外で実施。

夜間持ち出しセット(玄関椅子に吊る)

品目理由備考
ヘッドライト両手が空く予備電池も同封
声が出にくい時に合図は3回=緊急
薬・連絡先カード命に直結ラミネート保護
ひざ掛け・ケープ冷え対策圧縮袋に収納
ポケットラジオ情報収集予備電池同封

役割分担・動線・持ち物:時間で切ると混乱しない

役割分担(主・副・予備)

  • 主介助:移乗・段差越えの主担当。
  • 副介助:ドア・荷物・照明・足元の安全。
  • 予備:連絡・合図・近所への声かけ。
    主は手を離さない/副は先行」を合言葉に。

動線の固定(日常から同じ動きに)

  • 寝室→廊下→玄関→屋外毎日同じ順路で。
  • 玄関椅子を設置し、小休止→靴→ケープの順を習慣化。
  • 障害物ゼロ割れ物ゼロゾーンを通路に設定。

持ち物の最小セット(両手は空ける)

  • ショルダーポーチ薬・連絡先・小銭・身分証
  • 手袋(滑り止め)・マスク玄関内側に常備。
  • 延長コードモバイル電源車いすユーザーに有効。
  • 介護保険証の写し・お薬手帳写真をスマホに保存。

介護避難の準備表(家庭用)

項目配置場所点検頻度担当
玄関椅子・ケープ玄関月1
スロープ・手すり玄関・屋外半年
夜間セット玄関椅子下月1予備
連絡先カード寝室入口月1
予備電池・モバイル電源玄関棚月1

医療・服薬・衛生:中断させない工夫

服薬の継続

  • 1回分ずつ小袋に分け、日付と時間を大きく記入。
  • 急な中断で困る薬(てんかん・心臓など)は最優先で持ち出し

医療機器の扱い(在宅酸素・ストマなど)

  • 在宅酸素予備ボンベの位置を家族全員で共有。転倒防止ベルトで固定。
  • ストマ・カテーテル交換セット一式密閉袋に。
  • 血糖測定・インスリン保冷袋予備針をまとめる。

衛生の基本

  • 手指消毒こすり時間20秒を合言葉に。
  • 使い捨て手袋介助前後で交換
  • 口腔ケア柔らか歯ブラシ口腔湿潤剤を小分け。

認知症・見当識のゆらぎへの配慮

声かけの型

  • 名前→場所→行動の順で短く。例:「田中さん、寝室から玄関へ、ゆっくり行きます」。
  • 選択肢は二択:「右手の手すりを持つ・持たない、どちらにしますか」。

不安・興奮への対応

  • 音・光・人最小に。一人が主に話し、他は補助
  • 手をつなぐ・肩に手など触覚で安心感を出す。

迷子防止

  • 名札・連絡カード胸元に。
  • 玄関・廊下矢印表示を大きくし、戻る方向も明確に。

ケーススタディ:3世帯の実践

例1:片麻痺・杖使用(戸建・段差10cm)

ベッド高さ座面±5cmに調整し、スライドボード玄関椅子へ。玄関スロープ120cm(1/12)縁5cmで脱輪防止。が移乗、がドアと荷物。在室→玄関→外まで7分で完了。

例2:電動車いす(マンション・停電)

ヘッドライト・笛・連絡カード寝室入口に。水平避難を優先し、同一階の共用バルコニーへ移動。延長コード共用電源へ仮接続し、予備が近隣へ連絡。

例3:夜間・大雨・二人介助(狭い廊下)

が先行して足元灯を配置、腰ベルト後ろ支えドアストッパーで開放、滑り止めサンダルを履いて退避。合図は短文で統一して混乱を防止。


Q&A(よくある疑問)

Q1. 一人介助しかいない時、階段は?
A. 原則は避ける。可能なら水平避難、やむを得ない場合は段差板腰ベルト一段ずつ停止

Q2. 体が重くて持ち上がらない。
A. 持ち上げないのが原則。スライド・回転骨盤→肩→頭の順に移す。

Q3. 玄関が狭くて回れない。
A. 玄関椅子に出し、屋外で方向転換傘立て・収納を移設して90cm幅を確保。

Q4. 夜間で声が出ない。
A. ヘッドライト点滅で合図。合図3回=緊急を家族で共有。

Q5. 雨でスロープが滑る。
A. 縦溝ゴムシート・砂入り塗装に変更。上下端に50cm水平部を入れて再施工。

Q6. 認知症で不安が強い。
A. 一人の声かけに統一し、短い言葉と触覚を使う。選択は二択に絞る。

Q7. 在宅酸素やストマがある。
A. 予備ボンベ・交換セット玄関椅子下に常備し、連絡カードにも明記。


用語辞典(やさしい言い換え)

移乗(いじょう):人をある場所から別の場所へ移すこと。
水平避難:階段を使わず同じ階の安全な場所へ移ること。
スライドボードすべりやすい板。座面間をすべらせて移す道具。
腰ベルト(移乗ベルト):介助者が腰を支える帯。すべり落ちを防ぐ。
1/12・1/15高さ1に対し長さ12・15の勾配のこと。
回転スペース:方向転換に必要な円の広さ


まとめ:段取りが介助者と家族を守る

避難の安全は段取りでつくれます。移乗は持ち上げずに滑らせる/階段は二人で一段ずつ/夜間は光と音の二重化。そして主・副・予備の役割を平時から決めておけば、非常時も同じ手順で動けます。今日、玄関椅子・夜間セット・連絡カードの3点から整え、初動10分のタイムラインを家族で共有しましょう。

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