ポータブル電源の容量計算術|何Whで何時間か完全ガイド

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「この容量(Wh)で何時間もつ?」——ポータブル電源選びの核心はここに尽きる。本ガイドは、式→実例→用途別設計→充電計画→安全運用の順で、だれでも同じ答えにたどり着ける“計算の型”をまとめた。大きめの表・テンプレ・チェックリスト・Q&A・用語辞典を収録。今日から購入前の迷い停電時の不安を消そう。


  1. 1.容量計算の基本式と考え方|まずは“式”を体に入れる
    1. 1-1.Wh・W・Ahの関係を一気に理解
    2. 1-2.実際の稼働時間を出す標準式
    3. 1-3.“連続出力”と“瞬間最大(サージ)”は別モノ
    4. 1-4.“平均消費”で考える(デューティ比)
    5. 1-5.変換効率・稼働率・温度の目安表
    6. 1-6.化学の違い(LiFePO₄と三元系)をざっくり把握
    7. 1-7.3秒暗算ルール(現場で即決)
  2. 2.家電別“何Whで何時間”早見表|数字で一発把握
    1. 2-1.低消費(通信・照明・測定)
    2. 2-2.中消費(生活の芯)
    3. 2-3.高消費(短時間・単発)
      1. 2-4.代表機器×容量別 稼働時間(概算)
    4. 2-5.“同時使用”の合算と優先順位
    5. 2-6.“最小セット”早見表(情報・明かり・冷蔵)
  3. 3.用途別の容量設計|24h・48h・72hシナリオで決める
    1. 3-1.在宅停電(家族3人・48時間)
    2. 3-2.車中泊・キャンプ(2人・24時間)
    3. 3-3.テレワーク48h(1人+家族共有)
    4. 3-4.医療・福祉機器(一般的手順の紹介)
    5. 3-5.72h想定(在宅待機・家族4人)
      1. 3-6.“わが家版”容量設計ワークシート(コピー可)
  4. 4.充電戦略と入出力バランス|“減りより速く入れる”設計
    1. 4-1.充電の種類と速度
    2. 4-2.入出力バランスの考え方
    3. 4-3.サイクル寿命と“20〜80%運用”
    4. 4-4.充電時間の目安表(ロス込みのざっくり値)
    5. 4-5.ソーラー構成の基本(直列/並列の考え方)
    6. 4-6.発電機と併用する場合の注意
  5. 5.安全・設置・運用の型|“だれが触っても安全”を作る
    1. 5-1.安全チェック(設置前)
    2. 5-2.運用のコツ(停電・キャンプ共通)
    3. 5-3.保管・点検・更新
    4. 5-4.“停電モード台本”テンプレ(家族掲示用)
    5. 5-5.“誰でも運用できる”ラベル化の工夫
  6. Q&A|よくある疑問を数字で解消
  7. 用語辞典(やさしい言い換え)
  8. まとめ|“式→表→台本”で迷わない

1.容量計算の基本式と考え方|まずは“式”を体に入れる

1-1.Wh・W・Ahの関係を一気に理解

  • Wh(ワット時)電気のたくわえ(エネルギー量)。箱に書かれた**“○○Wh”満タン時の理論値**。
  • W(ワット)家電が電気を使う速さ。数字が大きいほど減りが速い
  • Ah(アンペア時)は電気の量の別表現。Wh=V×Ah(電圧×アンペア時)。同じAhでも電圧が違えばWhも違う

1-2.実際の稼働時間を出す標準式

稼働時間(h) ≈ 容量Wh × 実効係数 ÷ 家電W

  • 実効係数の目安:
    • DC出力(USB/12V):0.90〜0.95
    • AC出力(100Vコンセント):0.80〜0.90直流→交流への変換ロス)
  • 例:1000Whの電源でAC100W1000×0.85÷100=約8.5時間

1-3.“連続出力”と“瞬間最大(サージ)”は別モノ

  • 連続出力(W)出し続けられる上限。ここを超える家電は動かない
  • 瞬間最大(サージ)起動の一瞬だけ出せる上限。モーター機器(冷蔵庫・ポンプ・工具)は起動2〜3倍が必要。

1-4.“平均消費”で考える(デューティ比)

  • 家電はつきっぱなしではない。冷蔵庫は入り切りの繰り返し
  • 平均W=定格W×稼働率(例:冷蔵庫0.25〜0.4)。

1-5.変換効率・稼働率・温度の目安表

項目目安解説
DC(USB/12V)効率0.90〜0.95直流→直流でロス小
AC(100V)効率0.80〜0.90直流→交流の変換ロス
冷蔵庫の稼働率0.25〜0.4室温・開閉で変動
扇風機の稼働率1.0連続なら100%
LED照明の稼働率1.0定格通り
温度補正(0℃)−10〜−20%低温で容量低下
温度補正(35℃)−5〜−10%高温で保護動作の恐れ

1-6.化学の違い(LiFePO₄と三元系)をざっくり把握

  • リン酸鉄(LiFePO₄)長寿命・熱に強い。サイズはやや大きめ。停電対策・常用に好相性。
  • 三元系(NMC/NCA)小型・高出力。軽量で持ち運びに向くが高温管理に注意

1-7.3秒暗算ルール(現場で即決)

1)ACは0.85、DCは0.92を掛ける。
2)1000Whで100Wなら約8.5h。比例で伸縮。
3)**安全率−20%**で見積もる(温度や劣化の余裕)。


2.家電別“何Whで何時間”早見表|数字で一発把握

2-1.低消費(通信・照明・測定)

  • スマホ充電(10W)/ルーター(15W)/LED照明(10〜20W)。情報と明かりは最優先。

2-2.中消費(生活の芯)

  • 小型冷蔵庫(定格100W・稼働率0.3→平均30W)/扇風機(25〜40W)/ノートPC(30〜60W)。

2-3.高消費(短時間・単発)

  • 電気ケトル(800〜1200W)/電子レンジ(800〜1200W)/ドライヤー(1000W前後)。**“使う時だけ”**運転。

2-4.代表機器×容量別 稼働時間(概算)

※実効係数:DC0.92/AC0.85、冷蔵庫は平均30W換算。

機器消費W500Wh1000Wh1500Whメモ
ルーター15(DC)約30.7h約61.3h約92h情報の命綱
LED照明10(DC)約46h約92h約138h1部屋・夜間想定
ノートPC40(AC)約10.6h約21.3h約32h省電力設定で延命
扇風機30(AC)約14.2h約28.3h約42.5h中〜弱運転
小型冷蔵庫30平均(AC)約14.2h約28.3h約42.5h開閉少で延びる
電気ケトル1000(AC)約0.43h約0.85h約1.28h1回数分を重ねる
電子レンジ1000(AC)約0.43h約0.85h約1.28h温めは短時間に

例:1000Whルーター15W=約61h扇風機30W=約28h(概算)。

2-5.“同時使用”の合算と優先順位

  • 同時に動かすWの合計連続出力を超えないか確認。
  • 例:冷蔵30W+扇風機30W+LED10W=70W(AC換算は余裕を見て)。
  • 単発家電(ケトル/レンジ)は使う時だけ上げ、他を一時OFFで安全。

2-6.“最小セット”早見表(情報・明かり・冷蔵)

目的機器と平均W24h必要量(AC/一部DC)推奨容量
情報と連絡ルーター15W×24h×0.92約331Wh500Wh級で十分
明かりLED10W×5h×0.92約46Wh上に加算
食品保全冷蔵30W×24h×0.85約612Wh合計約990Wh/日 → 1000Wh/日

3.用途別の容量設計|24h・48h・72hシナリオで決める

3-1.在宅停電(家族3人・48時間)

  • 目標:情報(ルーター)・明かり(LED)・食品保全(冷蔵)・通話充電を維持。
  • 設計例(1日分):
    • ルーター15W×24h×0.92=331Wh
    • LED10W×5h×0.92=46Wh
    • 冷蔵30W×24h×0.85=612Wh
    • 充電(スマホ2台)10Wh×2=20Wh
    • 計:約1009Wh/日 → 48hで約2018Wh
  • 推奨:2000Wh級節電運用、または1000Wh級×2台で分担。

3-2.車中泊・キャンプ(2人・24時間)

  • 目標:照明・扇風機・小型冷蔵・スマホPC
  • 例:扇風機30W×8h×0.85=204Wh、LED10W×6h×0.92=55Wh、冷蔵30W×24h×0.85=612Wh、PC40W×3h×0.85=102Wh、充電20Wh → 合計:約993Wh
  • 目安:1000Wh級=1日1500Wh級=余裕あり

3-3.テレワーク48h(1人+家族共有)

  • PC40W×8h×0.85=272Wh、モニタ30W×6h×0.85=153Wh、ルーター331Wh、照明46Wh、冷蔵612Wh → 1日約1414Wh
  • 推奨:1500〜2000Wh級昼は充電、夜は消費の運用。

3-4.医療・福祉機器(一般的手順の紹介)

  • 医師・機器メーカーの指示が最優先。ここでは計画手順のみ
    1)消費W必要連続hを確認(例:40W×8h)。
    2)**AC効率(0.85)**を掛ける。
    3)通信・明かりを加算。
  • 例:40W×8h×0.85=272Wh(機器分)。全体で500〜800Wh/夜+余裕。

3-5.72h想定(在宅待機・家族4人)

  • 冷蔵(612Wh/日)×3=1836Wh通信331Wh×3=993Wh照明46Wh×3=138Wh、充電60Wh → 合計約3027Wh
  • 2000Wh級+1000Wh級組み合わせが現実的。

3-6.“わが家版”容量設計ワークシート(コピー可)

【前提】使用時間:__時間(__日)/外気温:__℃
機器名:____ 消費:__W 出力:AC/DC(効率0.__)
計算:__W × __h × 0.__ = __Wh
合計必要量:__Wh 安全率(+20%):__Wh
推奨容量:__Wh(または __Wh × 台数)
同時使用最大:__W → 連続出力__W以上が必要

4.充電戦略と入出力バランス|“減りより速く入れる”設計

4-1.充電の種類と速度

  • AC充電:自宅で最速。入力500Wなら1000Wh→約2h(理論)。終盤は電流が絞られもう少し延びる。
  • 車載(シガー)60〜120Wが一般的。補助と考える。
  • 太陽光(ソーラー):天候で変動。100Wパネル→実効60〜80W目安。MPPT対応で効率向上。

4-2.入出力バランスの考え方

  • 昼は入れる/夜に使うが基本。
  • 例:消費400Wh/日に対し、ソーラー200W×4h=実効600Wh入れば残量が増える

4-3.サイクル寿命と“20〜80%運用”

  • 満充電〜ゼロの往復は劣化を早める。日常は20〜80%で運用し、たまに満充電して残量計を補正

4-4.充電時間の目安表(ロス込みのざっくり値)

容量入力200W入力500W入力1000W
500Wh約3.0h約1.3h約0.8h
1000Wh約6.0h約2.6h約1.3h
2000Wh約12.0h約5.2h約2.6h

実運用では**終盤減速(CC/CV)**で+10〜30%を見る。

4-5.ソーラー構成の基本(直列/並列の考え方)

  • 直列:電圧が上がる。入力上限電圧に注意。影の影響を受けやすい
  • 並列:電流が増える。太めの配線ヒューズで安全確保。
  • コントローラ(MPPT)の入力範囲最大電力仕様で確認

4-6.発電機と併用する場合の注意

  • 屋外・風通し排気方向の安全確保。
  • インバータ発電機を推奨(電気の質が安定)。
  • 充電入力の上限Wを超えない設定で。

5.安全・設置・運用の型|“だれが触っても安全”を作る

5-1.安全チェック(設置前)

  • 放熱スペース:上下左右に数cm以上の空間。直射日光と高温を避ける。
  • 配線太いケーブル、差し込みの緩みなし巻いたまま使わない(発熱)。
  • 波形:家電は正弦波が基本。モーター・精密機器は特に重要。

5-2.運用のコツ(停電・キャンプ共通)

  • 優先順位:情報→明かり→食品→快適。
  • 単発家電使う時だけ。レンジやケトルは短時間で切る
  • 温度管理低温=容量低下/高温=保護停止常温域で使う。

5-3.保管・点検・更新

  • **残量40〜60%**で室内保管。3〜6か月ごとに追充電。
  • 端子・ファンのホコリ除去。吸気/排気口はふさがない。
  • 保証年数・サイクル数を越えたら更新を検討。

5-4.“停電モード台本”テンプレ(家族掲示用)

1)情報:ルーターON、スマホ充電は夜間に集約
2)明かり:LEDは部屋単位でON/OFF、点けっぱなし禁止
3)冷蔵庫:開閉を減らす、設定温度を一段上げる
4)単発家電:ケトル/レンジは使用時のみ通電
5)就寝前:残量確認、翌日の充電計画(AC/車/ソーラー)

5-5.“誰でも運用できる”ラベル化の工夫

  • コンセントに用途札(例:通信/照明/冷蔵)。
  • 同時最大Wの上限を本体に大きく記載
  • 残量しきい値(例:30%で節電モード)を家族共通ルールに。

Q&A|よくある疑問を数字で解消

Q1.「1000Whあれば1kWで1時間?」
ほぼその通り。ただし変換ロス0.8〜0.9時間が現実的。

Q2.冷蔵庫が動かないのはなぜ?
起動電力(2〜3倍)で連続出力超過の可能性。**容量(Wh)だけでなく出力(W)**も要確認。

Q3.並列接続で容量は増やせる?
機種ごとに可否が異なる。取扱説明に従う。自作配線は厳禁

Q4.ノートPCはDCとACどちらが有利?
DC(USB-C PDなど)が有利(ロス小)。非対応のみACを使用。

Q5.ソーラーパネルは何Wあればいい?
**1日の消費Wh ÷ 実効日照(3〜5h)**で目安。例:800Wh/day ÷ 4h ≒ 200W

Q6.残量0%まで使っても大丈夫?
劣化が早まる恐れ。非常時以外は**20〜80%**で運用。

Q7.低温で急に持ちが悪い
**温度補正−10〜−20%**を見込む。室内に取り込みDC優先でロスを減らす。

Q8.発電機で急速充電してもいい?
入力上限W以内なら可。屋外・排気方向防振延長コードの太さを守る。


用語辞典(やさしい言い換え)

Wh(ワット時)電気のたくわえ。大きいほど長く使える。
W(ワット)電気を使う速さ。大きいほど減りが速い。
Ah(アンペア時)電気の量の別表現。Wh=V×Ah
実効係数ロスを見込んだ係数。AC0.8〜0.9/DC0.9〜0.95。
連続出力/瞬間最大出し続けられる上限起動時の上限
デューティ比動いている割合。平均Wを出す時に使う。
MPPT太陽光の力を引き出す制御。効率が良い。
正弦波家と同じ形の電気。家電が安心して動く。
温度補正暑さ寒さで容量が変わる見込み


まとめ|“式→表→台本”で迷わない

  • 稼働時間 ≈ 容量Wh × 実効係数 ÷ 消費W
  • :家電ごとの消費Wと稼働率平均Wを出す。
  • 台本:停電やキャンプの優先順位充電計画を決める。

この三点を家族で共有すれば、買う前の比較使う時の判断も同じ基準で行える。あなたの暮らしに合う**“ちょうどよいWh”**を、今日決めよう。

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