停電・断水・避難生活――「時間が余る」「不安で落ち着かない」。そんな時、小さな娯楽は体温を戻し、気持ちを整え、家族の会話をつなぐ装置になる。
本稿では、トランプ・塗り絵を中心に、少容量・低コスト・静音で役立つ娯楽用品の選び方と運用を、準備→使い方→衛生→保管→心のケア→継続のコツまで徹底解説する。表・手順・チェック表・Q&A・用語辞典付きで。500gの小さな荷物で、夜の不安と日中の退屈を同時にケアしよう。
1.非常時になぜ「娯楽」が必要か:心と行動の仕組み
1-1.不安と退屈を分けて対処する
- 不安は「先の見通しがない」感覚、退屈は「今この瞬間の手持ち無沙汰」。どちらも体力・判断・睡眠を削る。
- 短時間で達成感が得られる遊びは、不安の反芻を中断し、夜の入眠を助ける。
1-2.共同作業化で「孤立」を防ぐ
- ルール共有→順番待ち→結果共有の流れが小さな秩序を作り、避難所の摩擦を減らす。
- 年齢差があっても役割を分けやすい(配る・数える・色を選ぶ・記録する)。
1-3.手先の作業は「落ち着く」をつくる
- 塗り絵・折り紙・簡単なパズルは手の細かな動きが中心。呼吸が整い心拍が下がる。
- 勝敗の強さが低い遊びは気まずさを作りにくい。
1-4.体調の波に合わせて“遊びの強度”を選ぶ
体調・気分 | 向く遊び | 時間目安 | ねらい |
---|---|---|---|
ざわざわ・不安大 | 共同塗り絵/神経衰弱 | 5〜10分 | 呼吸を整え会話の糸口を作る |
退屈・眠い | スピード/七並べ | 5〜10分 | 眠気を飛ばし頭を切り替える |
元気・子ども多い | ババ抜き/しりとり絵 | 10〜15分 | 参加者を増やし交流を作る |
就寝前 | 静かな塗り絵/折り紙 | 5分 | 覚醒を下げ入眠を助ける |
2.トランプの非常用セットアップ:1デッキで無限に遊ぶ
2-1.一つで多用途:選び方と常備数
- 標準52枚+ジョーカー2枚。紙製は軽いが水に弱い、表面コートは汚れに強い。
- 家用2デッキ+非常袋1デッキが目安。子ども向けは大きめ数字・色濃い柄が見やすい。
- 視力配慮:コントラスト強め・大数字の高齢者向けを1組用意すると誰でも参加しやすい。
2-2.家族向け・静か・短時間のゲーム例
- スピード:2人/3〜5分。集中して頭を切り替える。
- 神経衰弱:2〜4人/5〜10分。記憶と笑いを作る。
- ババ抜き:2〜6人/5〜10分。年齢差に強い。
- 七並べ:3〜6人/10〜15分。順番・配慮を学べる。
- 戦力差調整:大人は手札を1〜2枚多く持つ/時限ルール(5分で打切り)で泣きにくい雰囲気に。
2-3.消耗・汚れへの対応(衛生と長持ち)
- 手指の清拭→カード表面の順で拭く。アルコール過多は印刷を傷めるため軽く一拭き。
- 濡れたカードは平置き乾燥。紙製は反り防止に本で押さえる。
- 保管:ジッパー袋+乾燥剤、箱は角をテープで補強。
トランプ導入の早見表
目的 | 推奨仕様 | 人数 | 所要時間 | 静かさ |
---|---|---|---|---|
幼児〜低学年 | 大きめ数字・厚め紙 | 2〜4 | 5〜10分 | 4 |
家族全員 | 標準サイズ・表面コート | 2〜6 | 5〜15分 | 5 |
高齢者と | 大数字・濃色マーク | 2〜4 | 5〜10分 | 5 |
音・光への配慮(カード遊び共通)
注意点 | ありがちな失敗 | 代替策 |
---|---|---|
夜間の音 | 勝敗の歓声・机音 | 小声ルール/下敷き板で防音 |
まぶしさ | 直視型ライトの反射 | 間接照明/ライトは手元の横から |
3.塗り絵・色鉛筆・スケッチ:静かな集中で心を整える
3-1.塗り絵セットの選び方(用紙・図案・色)
- 用紙は厚手上質で裏抜けしにくいもの。切り離しミシン目があると配布しやすい。
- 図案は自然・幾何学・動物など勝敗がない題材が安心。**共同塗り絵(大きめ1枚)**は会話が生まれる。
- 12色の色鉛筆+消しゴム+鉛筆削りが基本。芯はHB〜2Bだと塗りやすい。
3-2.避難所でも使いやすい「静音・省スペース」
- 下敷き兼用の板(A4〜A3)で机なしでも静かに作業。
- ミニライトで手元だけを照らすと周囲に配慮できる。
- 完成品はひもで掲示し達成感を共有。掲示担当を交代制にすると参加感が続く。
3-3.衛生と後片付け(安全第一)
- 色鉛筆は共有前後に拭く。削りカスは袋へ。
- 油性ペンは匂いで体調不良の人が出やすいので避ける。
- 収納袋はジッパー付、名前札で紛失を防ぐ。
塗り絵・スケッチ早見表
構成 | 推奨点 | ねらい |
---|---|---|
12色色鉛筆 | 軽量・折れにくい芯 | こども〜高齢者まで使える |
塗り絵冊子 | 厚手・ミシン目 | 共有と掲示が簡単 |
下敷き板 | A4/A3 | 机なし環境で静音 |
収納袋 | ジッパー付 | 紛失・汚れ防止 |
テーマ別の使い分け
状況 | 向くテーマ | 備考 |
---|---|---|
朝の気分上げ | 明るい花・風景 | 会話が生まれやすい |
昼の静けさ | 幾何学・模様 | 無心になれる |
夜の入眠前 | やさしい動物 | 線が太めで眩しさ少なめ |
4.避難袋に入れる「静かな遊び」:優先度・量・点検周期
4-1.優先度高のアイテム(音が出ず、明かり少量で可)
- トランプ1デッキ、塗り絵冊子+12色、折り紙(15cm)、小型パズル。
- 合計500g以内に収めると持ち出しやすい。
4-2.年齢・人数・滞在場所で変える分量
家族構成 | 推奨アイテム | 予備 | 点検周期 |
---|---|---|---|
夫婦 | トランプ×1、折り紙 | 色鉛筆替芯 | 半年 |
夫婦+幼児 | トランプ×1、塗り絵×1 | 色鉛筆×12、折り紙多め | 季節ごと |
三世代 | 大数字トランプ×1、塗り絵×2 | 予備消しゴム・削り器 | 季節ごと |
4-3.共有ルールを先に決める
- 使う前に手指を拭く、順番は時計回り、終了時間を決める。
- 片付け担当は子どもと大人で交代制。名前札を作り持参品の混在を防ぐ。
4-4.収納・保管・防湿の工夫
- 防水袋(ジッパー+乾燥剤)で湿気と汚れを防ぐ。
- 小分け(カード・色鉛筆・下敷き)で貸し出しがしやすい。
- 貸出カード(名前・時間)を作ると紛失が減る。
携行セット重量の目安
品目 | 重さ目安 | 個数 | 小計 |
---|---|---|---|
トランプ | 100g | 1 | 100g |
塗り絵冊子 | 150g | 1 | 150g |
色鉛筆(12色) | 120g | 1 | 120g |
折り紙(50枚) | 80g | 1 | 80g |
下敷き板A4 | 50g | 1 | 50g |
合計 | 500g前後 |
5.こころを守る使い方:導入・声かけ・終わり方・継続のコツ
5-1.導入:合図と言葉でスイッチを入れる
- 「10分だけやってみよう」など短い提案で始める。
- **目的は“休むため”**と伝え、勝ち負けの熱量を下げる。
- 役割配分(配る・数える・掲示・片付け)を最初に決める。
5-2.声かけ:結果よりも過程をほめる
- 「色の選び方がいいね」、「めくり方がていねい」のように行動を具体的にほめる。
- 勝敗の発表は小声、悔しい気持ちは言葉で共有して終える。
5-3.終わり方:満足の“余韻”を残す
- 時間で終える(例:15分×2回戦)。
- 次にやるページへ付せんを貼り再開しやすくする。
- 掲示→写真記録(通信があれば)で思い出に残す。
5-4.困りごと別リカバリー
困りごと | よくある原因 | すぐ試せる対策 |
---|---|---|
泣いてしまう | 勝敗の強さ・待ち時間 | 短時間ルール/協力型に切り替え |
けんかが増える | 役割不明 | 役割カードを作る/順番を見える化 |
集中が切れる | 目の疲れ・空腹 | 5分休憩/水分/手洗いで気分転換 |
Q&A(悩みを一気に解決)
Q1:子どもが負けて泣く。どうすれば?
A: 勝敗がゆるい塗り絵・共同パズルへ切り替え。勝った人は手伝い役に回るルールで関わりをつなぐ。
Q2:場所が狭く周囲に配慮が必要。
A: 音の出ない遊び(塗り絵・神経衰弱・折り紙)を選び、下敷き板で机音を減らす。夜は低照度の手元灯に。
Q3:カードや色鉛筆の衛生が心配。
A: 手指→道具の順に拭く。ウェットシートは低アルコール。完全乾燥してから袋に戻す。
Q4:大人だけでも楽しめる?
A: スピード・七並べや幾何学塗りは短時間の休息に合う。5〜10分で切り上げると続けやすい。
Q5:長期化したら飽きない?
A: ペア替え・時間制限・掲示で変化を付ける。折り紙作品の交換も効果的。
Q6:高齢者や弱視の家族がいる。
A: 大数字トランプ/濃色マークと太芯の色鉛筆を用意。照明は横から当てて反射を減らす。
Q7:すぐに泣き笑いが起きて疲れる。
A: 時間を短くし、共同作業中心に。開始・終了の合図を毎回同じ言葉にすると心が整う。
用語辞典(やさしい言い換え)
表面コート:カードの表面に薄い膜を張り、汚れや水滴に強くする加工。
下敷き板:机がなくても平らに書ける板。防音効果もある。
共同塗り絵:1枚を数人で塗るやり方。会話が生まれやすい。
役割カード:配る・数える・掲示・片付けなどの担当を見える化する札。
まとめ:小さな遊びは「心の非常電源」
トランプ1デッキ・塗り絵・12色――この500gの荷物が、不安の反芻を止め、会話を生み、眠りを助ける。音が出ない・短時間・交代制を合言葉に、家用2セット+非常袋1セットを小分けで常備。使う前に手指を拭く→時間で区切る→掲示して称えるの三段で、非常時のこころの体力を守ろう。